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TalesWeaver/OriginalSideStory~ 公式シナリオとは無関係です。
*ストロベリー~Chapter1-After
自ら置かれた灯りは僅かな間接照明と受付のランプ。
出入り口から打ち出される外の光が訪問者にロビーでの視界を提供している。
受付係の羽ペンと衣擦れの音だけが辺りに響き、外部から聴こえる街の喧騒はその静けさを破れずにいた。
シャドウ&アッシュは硬く寒々しい雰囲気を譲る事無く守っている。
その日のマキシミン・リフクネは普段よりものんびりとした足取りでシャドウ&アッシュの受付に訪れた。
今日もこれといった依頼はなく、受付係のベクレールは「仕事はありません」と一言返した。
マキシミンはそれだけ聞いた後いつもどおりにさっさと姿を消したかと思うと、
どこからかチェス盤と椅子を持ってきてベクレールに絡んだ。
ベクレールも帳面の整理以外は少々暇を持て余しており、小手を利かす程度なら良かろうと
マキシミンの誘いに乗ってチェス盤に目をやり駒を突付き始めた。
ベクレールが走らせる羽ペンと衣擦れの音に加えてマキシミンが靴先で床を叩く音がロビー中に響き渡る。
駒の置かれる音に正確に反応するベクレールと、ほぼ無表情でチェス盤を見つめるマキシミン。
それらの姿はあまりに静かで無機質的である。
冷たい空気を湛えたギルド内でチェスの駒とそれを操る手先だけ生物の温かみを持って動いているように見えた。
ベクレールが思い出したように立ち上がり、取り出してきたティーポットがようやくその場に活気を与える。
二人でティーカップを傾けつつ、そろそろ時計の針も午後の時に指しかかろうという頃。
「ベクレールさんッ」
静けさが斬られた。不意にギルドの出入り口から響いた声に二人は顔を上げる。
それを見たマキシミンは眉をひそめ、ベクレールは目深に被ったフードごしに出入り口の辺りを凝視しているようだ。
イスピン・シャルルがロビーに急ぎ足で入ってきていた。着衣が暗い周囲に明るく赤い色彩を落とす。
「今更来たって仕事はないぞ、さっさと別へ……って」
悪態で返そうとしたマキシミンの言葉が止まった。そして、はぁ、と一息吐き出した。
ベクレールの方は言葉もなく表情すら見えないが「おやおや」といった雰囲気でイスピンの後方を見ていた。
イスピンの鋭い足音に続くもう一つの軽い足音が聴こえる。
「すみません、少し知恵を貸していただきたいんです」
イスピンの足元に一人の少女が追いついて来た。
背丈がイスピンの腰の辺りまでしかない、見るからに幼い少女だった。
まるでイスピンに合わせたかのような暖色系……桃色のワンピースがよく似合っていた。
両肩に垂れた二束の髪は金色にも近い栗色をしている。
「迷子、ですか?」
ベクレールはフードを少し上に掻きあげる。
少女はイスピンと言葉を交わした二人の男を見ると、顔を俯けてイスピンの足元に纏わりついてまた泣き始めている。
「そうです」
イスピンは自分に纏わる少女の片手を取ると受付に近づいた。
少女は泣き顔でイスピンの手を引っ張ったが、イスピンが一瞥すると素直にイスピンの左手を握り直して後について歩いて来た。
すっかり困り顔のイスピンと明らかにギルドの雰囲気に怯えている少女の二人に、マキシミンは溜息を返す。
「迷子なら迷子で、ちゃんと家に届けてやればいいじゃん? それとも、一緒に迷子になっちゃいました〜なんて言うんじゃないだろうな」
「ふん、なんにでも干渉したがるんだね。ボクはキミには何も言ってないよ、キミじゃなくてベクレールさんに尋ねたくて来たんだ」
イスピンの困り顔はマキシミンと対峙し一変しかめっ面に変えられるが、ベクレールに向き直ればまた困り顔に戻った。
マキシミンが「ちぇ」と舌打ちを漏らすのが聴こえた。
「私を頼りにしていらしたんですか」
「はい、この子……ボクもそれほど詳しい話は聞けてないんですが」
「二人でその辺りに座って仲良く泣いてりゃそのうち誰かが助けてくれるんじゃないの?」
マキシミンはそう言うとだらしなく肩にひっかけていたコートを着直して席を立った。
「俺は知らないからな〜」
さっさとイスピンの横を通り過ぎ、ひらひらと片手を回した。
「元からお前など頼りにしてないッ」
イスピンが一際高く発した声に一瞬驚いて顔を見上げた少女も、次にはイスピンの視線を見習うように一緒に振り向いて出入り口へと消えるマキシミンの後姿を見送った。
涙に埋もれた目ではもはやただの人影にしか見えなかったであろう。
「で、ベクレールさん……」
「残念ながら、私は街の事情には疎いのですよ。この子には見覚えもありません……お名前はなんていうんですか」
ベクレールはカウンターから少し身を乗り出すと、少女に向かって話しかけた。
しかし、少女は上目遣いにベクレールを見るや否や、その風貌に少し怯えた表情を見せてイスピンの後方にまわった。
イスピンがしゃがみこんで少女に視線を合わせ、「お名前、言えるよね?」と優しい口調で聞いてやる。
しゃくりあげながら聞こえた言葉は、
「知らない人と話しちゃダメだもん」
ベクレールは少しばかり肩を落としたように見えた。
イスピンは諦めて立ち上がり姿勢を正し、「サニーという子なんです」と告げた。
「知らない人に言っちゃダメなのにー」
代わりに答えたイスピンに、少女が甲高い声をあげた。
イスピンは少女の反応を予想していなかったようで、少々慌てた。
「あ、ごめんね、でも、ボクじゃ何もわからないから……」
「いすぴんにだけ、って教えたのにぃ」
一度収まりかけていたように見えた涙がまた溢れ出した。
少女サニーはなかなかのむずがり屋さんのようだ。
イスピンがこれほど困った顔をしているのも初めての事で、ベクレールは少し面白さを感じていた。
「イスピンさんはどうやって彼女の名前を聞いたのですか?」
「ボクの名前を教えてあげるから、あなたの名前も教えてって言ってなんとか聞き出したんです」
「そうですか。ではサニー。私はベクレールというものです。私はいつも此処で受付の仕事をしているんですよ」
ベクレールは硬い態度を崩さず、しかし僅かに口調を和らげて自己紹介を始めた。
サニーの怯えた様子は変わらなかったが、それでもおそるおそるベクレールを見上げてその言葉を聞いている様子だった。
「これでサニーは私の名前を知ったし、私もサニーの事を覚えました。大丈夫ですよ?」
サニーは泣き止んではいるようだがまだまだ怯えた表情は変わらない。
「おじさんのおうちに帰りたい」
と、ひとこと言って俯いた。
イスピンはサニーと出会った時の状況を話し始めた。
サニーはナルビクの中央通りで一人でしゃがみこみ、俯いて泣いていたらしい。
丁度ギルドに向かおうとしていたイスピンが通りかかって少女が泣いているのを察し、駆けつけたのが始まりだった。
最初は泣くばかりの少女から聞けたのは「迷子になった」という言葉と、
イスピンが教えあいっこで聞いた『サニー』という名前、
そしてサニーが別の街からナルビクへ遊びに来ているという事情である。
その後もいくつか家の場所に関しての会話を交わしたが、
彼女と同じくナルビクに来て日の浅いイスピンには「海があって」「木が並んでて」という子供ならではの拙い説明では具体的な場所の見当はつかなかった。
仕方なし、ひとまずは自分が通いなれたギルドへ迷子連れで来た、いうわけだ。
話を聞き終えたベクレールは「ふぅむ」と唸り、「海沿いの家は沢山ありますからね」とだけ呟いた。
ナルビクは港町だけあって街の南部から東部は全て海に囲まれている。
そして海に面した歩道には樹木が規則正しく植えられており、サニーの言う「海があって」「木が並んで」いる場所は沢山あるのだ。
海沿いの住宅街から表通りを一通り歩くだけでも結構な時間を費やす。
そればかりかあちこちの建物を覚えていないと似たような景色が続くばかり、通りだけを見れば賑やかさはあれど特長のない街である。
「うーん」
ベクレールは唸ると、イスピンに視線を合わせた。
「イスピンさん、申し訳ないですがもっと詳しいお話が聞けてからにしていただけますかね……私にも一応仕事があるので、付きっきりにはなれないのですよ」
「あ」
イスピンは表情を曇らせ、「申し訳ないです」と受付カウンターの横の椅子―マキシミンがギルド内のどこからか持ってきてそのままにしてあったもの―に座るとサニーを抱き上げて膝に乗せた。
サニーはまだ帰る事が出来ないのを悟ってか、ぐずぐずと泣き始めた。
「サニー、おじさんっていうのはサニーの親戚のおじさんだったりするのかな?」
「うぅ……」
サニーは口を開こうとしたが、涙やら鼻水やらで上手く話す事が出来ない様子だった。
おまけに泣きじゃくっているものだから余計声が詰まっている。
イスピンはポケットからハンカチを出してサニーの顔を拭いてやった。
「あーあ、なっさけないの」
いつの間にかマキシミンが帰ってきていた。イスピンと目が合うとお互いに睨み合う。
これもいつもの事だが、今回はマキシミンがさっと視線を落とした。
丁度その視線の先に居たサニーが少し肩を縮こまらせる。
「キミは帰ったんじゃなかったの?」
「帰るとは言ってないだろ。……あー、そこ俺の席」
「空けている方が悪いんでしょう。自分のものだと主張するなら張り紙でも貼っておいたらどう?」
「うっさいなー。あーもう、女々しい奴に用はないんだっけ」
「なんですって?」
マキシミンの視線やら優しい人だと思っていたイスピンの怒声やらでサニーがますます小さくなっていく。
そこにマキシミンが「おい、ガキ」などと言い出したものだからサニーはまたも怯え始めた。
「サニーに何の用?」
「だからお前じゃないって言ってるだろ。そこのガキに用事」
サニーに用事?
イスピンは意外な言葉に眉をひそめるが、マキシミンが近づいてくるのを見ると思わずサニーの身体を両腕でかばうように抱きしめてマキシミンを睨み付けた。
そんな様子には構う事無く、彼はつかつかとイスピン……その膝上のサニーに歩み寄ると、左手に持っていた紙袋を開き、取り出した中身をついと突き出した。
「えーと、サニー? は、これを知ってるか?」
その小瓶を見たイスピンは一瞬呆けた表情になり、サニーは目を瞬かせた。
横で帳面に向かっていたベクレールもその小瓶を見、手を止めるといかにも興味深げにマキシミンを見た。
赤い液体の入った小瓶だ。サニーは目の前に突き出されたそれを観察するかのように見つめる。
「……イチゴシロップじゃないの?」
「当たり。じゃ、これはお前のだ」
サニーの膝にぽんと小さな紙袋と小瓶が置かれた。
「知らない人から物を貰っちゃいけないんだもん」
口ではそう言っていてもやはり子供らしく、ちらちらと膝の上で持たされたイチゴシロップを気にし始めている。
小瓶を返す仕種は見せない。イスピンもサニーをお腹に抱え込み、サニーの頭に顎を乗せてイチゴシロップを見た。
ベクレールはといえばいよいよ面白くなってきたようで、帳面にインクが垂れ落ちぬよう羽ペンをインク瓶の上に避難させて事態を見守っている。
「そんな事はいいから取っとけ」
マキシミンはくたびれたコートの右のポケットに手を突っ込んでガサガサ音をさせたかと思うと同じ小瓶とスプーンを指に挟んで取り出し、安っぽいコルク栓を引き抜いた。
スプーンを指先から掌に持ち直して小瓶に差し込み、シロップをかき混ぜ始めた。
「ああ、今日のは甘酸っぱい」
スプーンをくわえて感想を述べるマキシミンを見て、サニーも紙袋からスプーンを取り出してそおっとイチゴシロップを開封した。
ぽかんとマキシミンを見ていたイスピンの鼻先にもイチゴの甘い香りが漂ってきた。
「いつものはもっと甘ったるくてさ、長く食ってられないんだよな」
「キミはいつもイチゴシロップを食べているの?」
「あー、美味い美味い」
放った冷やかしは軽く流されたが、イスピンは苛立ちを感じなかった。
いつも嫌味ばかり言っていて、馬鹿だ愚かだ自分勝手だと思っていた男が一人でイチゴシロップなんて似合わないものを買ってきた。
更にそれを目の前で小さい女の子と一緒に食べている光景はあまりにも意外で……あまりにも滑稽。
一瞬(あたしの分はないのかしら)と考えた自分に気付き、それもまた少し可笑しかった。
「で、サニー。お前の家はどこだ」
「わかんない……んぐ」
「周りに店とかあるか?」
「わかんないけど、おじさんも、お店屋さんみたい」
「お店みたい、か」
イチゴシロップで取り持たれた会話はあまりにもスムーズで、イスピン・ベクレール両者共に言葉を挟むことなくマキシミンを見ていた。
マキシミンはスプーンを握った手を止め、ふいと首をかしげた。
「サニーのおじさんは何を売ってるんだ?」
「何も売ってない」
「何も売ってないお店??」
イスピンが思わず声を出す。マキシミンが唇をにやりと歪めた。
イスピンが聞き出していなかった情報を自分が先に引き出した事に少しばかり優越を覚えたように見える。
「お前、他に何か聞いてる?」
マキシミンはイスピンに目を向けて問うた。
「海沿いの家だという事を聞いているが」
「海沿いの、何も売ってない店か」
「何も売ってないけど、お店屋さんなのよ。みんなおじさんを頼りにしてお店に来るんだから」
サニーの口調は少し誇らしげに響いた。
マキシミンは小瓶にスプーンを挿し込み、底に残ったシロップのかき集めにかかった。
片目を閉じて小瓶の底を見つめながら……
( 『無い』品物。
頼りになる人材。
海沿いの店。 )
…推理、とも言える考えをまとめあげた。
「サニーのおじさんは、犬とか飼ってないか? でっかいヤツ」
その言葉でイスピンも思い当たったらしく「あ」と声を漏らし、それからようやく落ち着いた表情になった。
「お兄ちゃん、知ってるの?」
「ああ。あのおじさんとはちょっとした知り合いでね。帰ったらおじさんにマキシミンって人の事を聞くといいぞ」
「なかなか酷い男だという噂ね、マキシミン…という奴は?」
イスピンの毎度精一杯の嫌味も、今日この時に限っては笑顔が加わる。
形のないものを売る店、それはナルビクでは唯一つ、クエストショップ。
ショップの主人の名前と、店内の大きなソファをベッド代わりにした主人の愛犬の名を連ねた看板を掲げる情報屋だった。
クエストショップ『リカス&ムト』の主人リカスは、二人が連れた少女を見るなり「ああ、サニー。どこまで遊びに行ったかと思ったぞ?」とのんびり声をかけた。
大きな犬・ムトは珍しくのこのことソファを降りてサニーに、ついでにイスピンに体を寄せた。
「ムトー、ただいまー」
これが普段の姿であろう、ムトにじゃれて無邪気に笑うサニーの姿を確認してイスピンはようやく安堵した。
「で、リカス。この仕事、報酬はないの?」
「ははは、相変わらずだねマキシミン。感謝はするけれども、サニー自身がキミらに仕事として依頼したというのでなければ報酬は支払えないな」
からりと慣れた口ぶりで要求をかわすリカス。
イスピンの「これぐらい自粛しろ、バカモノ!」という小声のつもりだった一喝が予想外に大きな声で広がり、その場は笑いで閉じられた。
クエストショップを出た頃には陽が少し傾きかかっていた。
二人は何故か付かず離れず、揃ってナルビクの白い石畳を歩いていく。
「今日はありがとう」
イスピンが歩く道の先を見据えたまま礼を述べた。
「だからお前の為じゃないっての」
「しかし、ボクも困っていたからね。
どうもボクには子供の扱いは慣れないようだし、
マキシミンが帰ってこなければ今頃もその辺りを歩き回っていたかもしれない」
「ふむ……そっちの方が面白かったかな」
「な、冗談じゃない」
頑固同士の片割れ・イスピンが僅かに歩み寄る姿勢を見せてなお、マキシミンは全く変わらない。横目でイスピンの居ない方角―海を見つめて普段の仕種でニヤニヤ嫌味に笑っている。
今日のイスピンには彼のその姿がごく自然に見える。彼とペアを組む前に誰かに聞いた、『悪いヤツじゃない』という言葉がイスピンの記憶に思い起こされていた。
「ところで、何故手助けしてくれる気になったの? キミがサニーを気にしてくれたのは意外だったが」
「五月蝿いガキの扱いには慣れてんだよ」
マキシミンの口調は相変わらず、普段どおりの生意気な男だった。
ただ、その視線が不意に何かを思い返すように赤い空へと舞い……静かな溜息と微かな瞬きで石畳へと落ちる。
イスピンが「そう」と一言返し、そこで会話は止まった。遠く堤防を打つさざ波を聴きながら二人はナルビクの中央通りまで無言で歩いた。
別れ際、マキシミンはイスピンを呼び止めた。
「なあ」
「なにか用?」
「俺の本業は探偵だって話、信じるか?」
「寝言は寝てから言うんだね……」
―end.
ネクソンさんはイスピンの口調をきっちり定着させてくれないと困ります。
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