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RagnarokOnline/OriginalSideStory~ 公式シナリオとは無関係です。
*03-定められていく道


:: 一人は定めた。

「はぁ? クルセイダーになりたい?」
「はい。私も、僧侶様のように人を助ける力が欲しいと思ったから…」
「ふーん。止めはしないけど」

 義姉さまはカートにもたれかかってギコギコと車輪を鳴らした。
ついに宮廷が十字騎士団の募集を始めたと聞いて、私はいてもたっても居られなくなった。
クルセイダーとは僧侶の力を持つ騎士。 その力は主にエクソシズムに転用されるが、『回復』などの一部の術法も扱えるという。
何よりも神に仕える聖騎士だ。幼い頃から教会で神学を学びつつも剣士となった私には憧れの地位だった。
いてもたってもいられなくて、早速首都で露店を開いていた義姉さまに報告をしに来た。

「でも、あいつのように、ってのはやめといた方がいいかも」
「あいつ?」
「姉さんの事よ」

 僧侶様の話になると、決まって義姉さまは苦い顔をする。
僧侶様の紹介で初めて会った時からつけている眼帯のせいでその表情は余計に険しいものになる。

「あのスタイルに憧れるの、やめておいた方がいいわ。顔で笑って心で舌打ちしてるタイプ」
「そうですか……?」

 僧侶様と義姉さまが喧嘩をしている所は見たことがない。義姉さまが少しとげとげしい態度を取ってはいるものの、 非常に仲がよく見える。私と話している時と僧侶様と話している時、義姉さまの態度や口振りは全く変わらない。 これが義姉さまの地の性格なのだ。
だけれど、時々こうして僧侶様の性格を悪く言う時がある。
僧侶様と義姉さまは血の繋がりのある姉妹で、私には解らない部分もあると思うのだけれど義姉さまの口頭での 『僧侶様』は私には及びもつかないくらい元の僧侶様とはかけ離れている。

「クルセイダーは『自己犠牲』の術式を使うって聞くけど、あれ、覚えるつもりなの?」

 急に話が切り替わった。
私はそこまで考えてはいなかったからちょっとの間考えさせてもらって、

「いざという時にその力で人を助けることが出来るならば」

と答えた。
 義姉さまはいよいよ眉をしかめると、カートに頭を預けて天を向いた。

「いざという時って、あんたにとっては頻繁な事?」
「……今のところないけど、ダンジョンの深層や危険地帯に潜ることがあったら、もしかしたらの時があるかもしれないですし」
「そうね、それが最もな答えだわ。好き好んでそういうところに行くようになっちゃ困るけどね」
「まさか。私はまだ修練が足りませんから」
「そうそう。そう答えるべきなのよね」

 義姉さまの返答はますますわからないものになっていく。

「えーと、な、なにか気になる事がありますか?」
「あんたと姉さんは神様が中身を入れ違えたのね、きっと」
「…?」
「あんたの進む道は、姉さんが進むべきだった道。姉さんは全く気づいちゃいないけど」

 私は耳を疑う。僧侶様と私が入れ違い…僧侶様が進むべきだった道…
あの僧侶様と私が、入れ違ってる。あのやさしさと私の頼りなさ。恐れ多いとも思えた。

「そうだ、力に酔って自信過剰になったりしないでね。無茶して何かあったって、あたしはなんにも助けてあげられないわよ」
「大丈夫です。それと、義姉さまにはいつも助けてもらってます、武具を買っていただいたり、回復剤の支援をしていただいたり」
「だって稼いでもらってんだから当然じゃない」
「えーと、でも、ありがたい事ですから」

 私はありがとうございます、と正座したまま頭を下げた。
顔を上げる時に、懐中時計が義姉さまのひざの上に置かれているのに気づいた。
時計の針はあと20分ほどで午後になる時間帯を示している。

「あ」
「どうしたの?」
「実は、もうクルセイダーの転職試験に志願してきちゃってるんです! もうすぐ時間だから、行って来ます!」

 私は勢いよく立ち上がって皮のスカートをはたくと城に向かって走り出した。

「あー、頑張っていってらっしゃい」

 後ろで義姉さまが大声張り上げるのが聞こえた。
あの声でお店を切り盛りやってるんだなぁ、と思うとくすりと笑えた。
初めて旅立つ時、教会から戴いた小さなロザリオを握り締め私は王城に向かって走る。


:: 一人は見失った。


「ごめんなさい。お役に立てなくて……」

 それが私の、仲間たちに対する最後の言葉だった。
私はずっと彼らを守る為に戦いを学んできた。
でも…修練を積んだ彼らには、もう『守る』為のプリーストは要らなかった。
莫大な法力を積んだプリーストが唯一の命綱。そうでないプリーストはただのお荷物。
力の及ばない私は、自然にそうやって思いつめて、一人追い込まれて行った。 会話の中でも笑うことを忘れて、私は元気を失い私でなくなっていった。
そうして、彼らの中から消えていった。


 今日も、稼いで帰らなくちゃ。

「ねえ、カリメロ」

 どこかで聞いたようなフィーリングをそのまま名づけた鳥の子に話しかける。

「今日はどこ行こうか」

 そうは聞いても、このコは赤いハーブ草をかじってピヨピヨうなずいているだけだ。
自然に自分の力に合ったモンスターの居る地域へ足を運ぶ。

 幻想の街と呼ばれる洞窟から外へ。海岸線に沿って生息する凶暴化した海洋動物が地元住民の悩みの種だという。 私は近頃ずっと此処に通っている。
 さっと私の横を通り過ぎるものがあった。

「きゃ……」

 がつん、と何かが肩にぶつかって、私は思いっきり尻餅をついた。
小さな羽を必死でばたつかせながら降下してくるカリメロを両手で受け止める。

「……あの人も、ヘン」

 私を転ばせたのは大きな鳥に乗った騎士だった。
肩の痛みも忘れて騎士を眺めていると、彼はある地点でふと見えなくなった。まだ見失う距離ではない…

「やっぱりそうだった」

 不思議な冒険者達が居るのだ。
彼らはどこからともなく現われて何もない空間へと去っていく。
モンスターを操る者、私達に攻撃を仕掛けてくる者、アイテムをスリとって行く者と色んな人が現われるようになったが 彼らのうちの誰もが生気のない瞳をしている。以前はこんな事はなかった。

「神様は、何をしているのよ……」

 神様なんて居ない。誰も世界を見守ってくれてなんか、ない。
私はいつしかそう感じていた。最初は薄かった疑惑はどんどん膨らんで、私の心の中で収集がつかなくなっていた。 確信めいた疑惑は憎しみへ。私が居るこの世界、私が守りたい人たち、それらがみな日増しに歪んでいくのが解る。
私が信じていたものたちがみんな、どこかで崩れ去っていく。

「ねえ……」

 思わず両親を呼ぼうと口を開いたが、何故か父や母を呼ぶ声が出ない。
否、彼らをなんと呼んでいたのかが解らない。
絶対の肉親である両親。尊敬していた筈の両親。既にいないけど、頼りに思っていた両親。
おかしい……
考え込めば考え込む程、何かがたくさん抜け落ちていった。

「……私は、何をしているの?」

 見上げれば空。青い青い青い空。
…あれ?
いつだったか、同じ、空を見ていた。
あの時は大地を離れた空中都市で、いつもと同じ空を、見ている筈だった。

「違う」

 空は青い。青く、青く、そこには青以外のものを見た事は無かった。
なのに、あの時の白い……白い。
そう、雲。雲があった。見た事の無いものに名前があり、見た事の無い私が名前を知っているそれは。
なに。どこからか来る不思議な感覚、それは私の心を構成するものを壊していく……


:: 一人は見届ける。


 義妹が去った後、あたしはまたカートを枕に空を見上げた。
青い青い青い空。

「姉さんもあれだけ謙虚ならね」

 桃色が天を横切ったかと思うと一気に影が振ってきた。
ぼすっ、みたいな音がしてあたしの顔の上に何かが落ちてきた。

「わ、ナニコレ!」

 慌てて顔の上のものを取り払ってみると、それは大きなリボンだった。

「誰がなんですって」
「姉さん、いつから居たのよ」
「今来たところだけど、誰かと話してた?」

 どうやら義妹の姿は既に確認できなかったらしい。

「リルがクルセイダーになるってさ」
「ふうん。まぁ、当然の道かもね。あのコ教会育ちだもん」

 姉さんはあたしの隣に座る。

「そうかもね。それで、このリボンは戦利品?」

 大きなリボン、一時期ちょっと話題になった品で未だに欲しがる人が居るレアなアクセサリー。
これならきっと強気で売っても大丈夫……

「プレゼント」
「何よソレ!」

 売れないじゃない、と抗議にまわろうとしてはたと気づいた。

「売ろうがどうしようが自由だけどね」

 姉さんは見透かしたように笑った。

「お金は使ってないから大丈夫よ、自力で手に入れてきたわ。フィナ、最近外見がグレてるじゃない。
可愛くないからちょっと可愛いのつけてもいいんじゃないかなーと思って」

 暗い茶色に染めた髪、怪我もないのに片目を隠した眼帯、商売用のカートには勇ましく『道端屋』の旗。
外見がグレたのは正直言わせてもらえば姉さんのせいだ。
……稼ぎはあるものの生活を考えると相当辛いところまで来ている。
姉さんは稼ぐために魔法石を使う。
姉さんは稼ぐために武器を買う。
姉さんは稼ぐために怪我をする。
姉さん姉さん姉さんたまに義妹そして姉さんどれだけの出費をさせれば気が済むんだか。

ついでに言ってしまえば、一番お金を放出する姉さんは、本当は稼ぐ為に戦っているのではない……

「今日はどこに出稼ぎでしたか」
「砂漠の西の湿地帯」
「あら珍しい、今日は古城やらダンジョンの奥じゃなかったんですね」
「リボンを持ってるネコが居るって聞いたから」
「……そうですか」

 あたしはリボンを頭に載せてヘアピンで留めてみた。
頭の上でふわふわしているちょうちょ結びのしっぽ。

「うん、いい感じね。客寄せにぴったり」
「…そうね」

 あまり褒め言葉のようには感じないが、客寄せと聞くと放っておけない。
あたしはどこまで商人になっちゃうんだろう、全く悪いことではないのだけれど。

「フィナはいつまで商売続けるの?」

 姉さんとの会話は時々、いや最近ではいつもこちらの考えを見透かされているような気がする。
それだけお互いに慣れてきたって事なんだろう。

「いつまでって、姉さんがお金を貪り食う限りはずっと商売続けるわよ」
「その姉さんが、お金を食わなくなったらどうなるの?」

 いつだったか、義妹のリルが居ない二人きりの頃、似たような話をした雰囲気がある。
…気のせいだろうか?

「お金を食わなくなっても、商人よ。姉さんとリルを食わせなきゃなんないじゃない」
「食わせる人が居なくなったら?」

 何が言いたいんだ、この人。
そうだ、この雰囲気だ。姉さんに初めて質問をしたあの夜。
あたしはまた、姉さんを叱り付けるんだ。

「居なくなったら、って?」
「うん。私ね……この世界を出たいな、って思ったの」

 思いもよらない言葉だった。

「この世界ね、神様が居ない。ずっと騙されていたの、世界の原理に」
「だからなんだって言うのよ」

 あたしは頭に浮かんだ通りの言葉を返した。
何故か何も疑問は持たなかった。きっとまたバカな事言い出すんだから、疑問なんてない。
姉さんはあの夜とは違って、まっすぐに街を見つめていた。

「フィナは、村に居た時の事ってはっきり覚えてる?」

 村に居た時…あたしが商人の修行を積みに港町へ出る前の、実家のある村の事だ。
実家のある村。確かにあの村にはあたし達の実家があって、姉さんと一緒に居た。
……「姉さんと一緒に居た」という記録みたいな記憶しかない。
それから、港町に行った。村から港町までは森が続いていて少し歩かなければならないのだけれど……
あたしには、村へ戻るためにその道を逆に辿った記憶しかない。

「これは、覚えてるって言えるのかしら……」
「なんだか曖昧じゃない? 両親が居ないとか、フィナ覚えてる? 私は両親の顔すら覚えてない。
亡くなる前には物心ついて、しっかり覚えていられる年頃だった筈なのに」

 そういえばそうだ。あたし達には両親が居ない。
だけど、あたしを港町に行かせるって決めたのは両親の筈だ。
両親は居ない。それでも、あたしを港町に行かせたのは両親。
居なかった。一人で港町まで行くのは当時のあたしには不可能な筈だ。
じゃあ、誰が。

「私達は、そう『決められてた』のよ。私はどうあれ聖職者で、妹を持っている。
フィナは商人で、この世界に先に生まれた姉が居る……」
「やめて」

 不安を覚えた。
自分の中に該当する記憶がないならば姉さんのいう事を信じるしかない。
あたしには、姉さんしか居ない。
その姉さんが、「自分達は姉妹だと『決められた』」と言う。
あたしには、本当は何もなかったって事?

「やっぱりか」

 姉さんはあたしとは反対の方向に顔を逸らした。

「そう感じたのは私だけじゃなかった……これで、証明されてしまった」

 何も無いあたし達。そんなわけないじゃない、だって此処に姉さんが居る。

「フィナ、あなたは私の妹。何があってもそれは変わり無い事よ。
こんな考えに巻き込んでしまってすまなかったわね」

 そう、こうやって見透かされていく会話。
何故見透かされるのか、それはあたし達が姉妹だから、血の通った姉妹だから…
そうじゃないの? 繋がる思いが何より証拠。

「神様は居ない。私達はみんな空から世界に注がれた」

 見上げた空は青い。青い、青い空。

「そして、この空も作り物」
「うそ」
「空中都市で見た空には、白い雲があったの。だけど、私は他の場所でそんな空を見たことがない…」

 聞きたくない。これ以上聞いていたら、きっと私まで呑み込まれてしまう。

「『世界』は今日も平和よ。いつも、誰かが欠けても。ずっと『世界』は『世界』が思うままに平和」
「何が言いたいの。簡潔に述べて」
「信じるものを無くした人、自分の存在そのもの疑った人、無くして行く人ってどうなるんだろう」
「どうにもならない。だって此処にいるもの。あたし達は此処でちゃんと居るじゃん」
「ええ」

 必死で訴えかけても、もう姉さんの考えてることなんて知れてた。
この人は、今までずっとずっと『人』を助けたくて走ってきたんだ……

「あなたは神を信じますか?」

 修道服を纏う姉が問うた。

「信じない」
「何故?」
「そうやって姉さんを連れて行ってしまうからよ」

 姉さんは微笑んだ。

「フィナはまだ、此処で生きていける」

 神様は居ない、とっさにそういう答えが出なかったから。
あたしはまだ、神様の存在を信じてる。この世界の『神様』の存在を信じている、だから暮らしていける。
見守っているものがあるのだと、姉の瞳が告げている様に思えた。

「この話……リルには?」
「リルはずっと教会で勉強して、神様の教えを信じて私達を探した。 それで、今度はクルセイダーになるんでしょ。聖騎士は、神様を信じて進む道だもの。何も心配する事はないわ」

 私みたいになっちゃだめだって言っておいてね。
そう言った『姉さん』に、もう言っておいたわよ。と答えた。

 プリーストは立ち上がった。
そしてあたしを見下ろして……何かを言いたそうにしていたけれど、きっと彼女の思っていた言葉は出なかった。

「『帰る』ね。私達の妹に、宜しく」

 周りの喧騒はすうっと引いていった。
桃色の髪のプリーストは、何故か人ごみに紛れる事無くいつまでもその姿を遺して遠ざかっていった。

ありがとう

いい忘れた一言を、ようやく思い出した時にはもう……
風は、過ぎ去っていった。


*キャラクターとしてはこれでおしまいの話。
あまり深く考えていなかったのでかなり適当に収集つけてしまいました。
プリーストの名前が最後まで出なかったのは仕様というか狙ったとこです。
ついで、商人・剣士の名前は実際に使用していた名前ではなく、ちょっともじったもの。
同名さんすいません。カリメロはマジでそのまんまです。