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RagnarokOnline/OriginalSideStory~ 公式シナリオとは無関係です。
*02-その背中を追って


 姉さんが首都のメインストリートを通り過ぎていく。
ふらっと此方を眺めて、あたしに気づいて手を振った。
あたしも適当に片手を振り返すと、姉さんは首都の人ごみに消えていった。


 あたしと姉さんは離れて育った。
姉さんは昔から元気な子どもで、比較的大人しかったあたしは港町の親戚の家に貰われていった。
その家は代々商人として名を語り継ぐ家だったそうだけど、もう随分と子宝を授かる事が出来なかった。
跡取りとなる子どもがいないから、せめて女でも商才を持てる子どもが欲しかったと。
あたしは姉さんと離れ離れになった。だけれど、いつかはまた一緒に暮らすものだと思っていた。
大人になれば、あたしは自由に世界を飛び回る商人になる。
きっと田舎で大人しくしてはいられない姉さんを連れて、最高に楽しい旅をするんだ。
そう思っていた。

 あたしがようやく商人としての実力を得て一人前として認められたその日に、あたしはやっと実家へ帰った。
でも、姉さんはもういなくなった後だった。首都へ出たと、そう聞かされて、かなわないなと思ったものだった。
あたしは首都を目指した。おそらく姉さんが通った道を、まだ手馴れない武器を振り回しながら一歩一歩進む。
武器の扱いをあやふやながらも教わったあたしと、何もしないままに村を飛び出した姉さん。
一体どちらが旅の先輩になるんだろうかと愉快な事を考えながら長い旅路を進んだ。

 首都はあたしの育った港町や実家とはまるで違う、大きくて喧騒やまぬ街だった。
あたしはその街並みには見向きもせず、あたし自身が覚えている姉さんの記憶の中で最も印象的だった桃色の髪について人々に聞き込みまわった。
沢山得た、見当違いの情報の中から選び出したいくつかの情報は一つに絞られた。

―姉さんは、戦っている。
 街に留まり続ける事なく、あちこちを戦ってまわる冒険者になっている、という事。

 それは当然のことだろうと思うが、少々都合が悪い。その中の一人を探すのは困難を極める。 しかし、桃色の髪の冒険者が幾人か首都を拠点にしているという話を聞きつけ、 あたしは少し安心できた。その中に姉さんがいるかもしれない。
そうでなくても、首都は冒険者が必ず数ヶ月に一度は立ち寄る大きな街だ。
旅の道具を揃えた商人達がさまざまな場所で露店を開き、日夜フリーマーケット状態。
ここを利用しない冒険者はおそらく皆無。あたしはここで商売を開くことに決めた。
あたしがこの街で有名な商人になれば、きっと姉さんも噂を聞きつける筈……
 そうと決まれば仕入れだ。地道な一歩から、あたしは始めた。
冒険者が必ず必要とするポーションの類から、遠く離れた魔法都市で取り扱われている魔法石。
ハンター達が扱う矢やトラップ、とにかく沢山の消耗品を取り揃えた。
あたしが仕入れの途中で見つけたレアアイテムも並べて、あたしの商売は始まった。

 ところがある日、あたしはこの大陸でもう一つの旅の拠点といわれる街の噂を聞きつけた。
その街は四方を砂漠に囲まれたオアシスの街で、近辺に古代の謎を持つ遺跡を多数抱えているという。
そんな話、冒険者が飛びつかないわけがない。あたしは直感でその街へ商売の拠点を移すことに決めた。
旅先が近い街の方が冒険者は多い筈だと考えたのだ。
時々は首都にも戻るけれど、しばらくはその街で滞在してみよう。
そうと決まればやはり仕入れだ。早速その街にはないと思われる品を大量に手配した。
ある意味商魂逞しい女にも見えよう。生活の為、というのも勿論あったけれど、 そうして商売に必死になって、姉探しなんて忘れているように見えて……
だけど、その商売は姉さんを探すため、手がかりを作るためのもの。
あたしはいつも首都を流れる人並みを見つめていた。
桃色の髪を捜して。
ずっと見つからなかったあの姉さんを、今度こそ捕まえてやろう。
あたしは絶対に姉さんに近づいてる。確信を持って、あたしは厳しい砂漠を横断した。
商売品だったポーションにも時々手をつけながらも、なんとか生きてその街に辿り着いた。

 街は、首都よりも商人が少なく冒険者が多かった。
これはチャンス! と商人のあたしが握りこぶしを作って露店を開く。
はい、いらっしゃいいらっしゃい。首都きっての商人露店・『フィナの道端屋』は今日も安いわよ!

・・・

 さすがに売れ行きがいい。露店供給の多い首都とは違い、たくさんの冒険者が詰め掛けてくる。
これは首都で居るよりもいい儲けになっているらしい。
姉さんを探すのでなければもっともっと商売に夢中になれたに違いない。
あたしは、商売が好きだ。頑張ってる冒険者達があたしの品を必要としてくれる。
商人になって、よかったな……桃色の髪を探しながら、今日もあたしはポーションを売った。
午後になると聖職者達が魔法石を買いにやってくる。
この街の商品の流れは大体読めてきた。そうして、魔法石の在庫を前に出している時にそいつはやってきた。

「すみません、魔法石を20個いただけますか……ッ!?」
「はい、魔法石ね、青20……ッ?!」

 あたしと客の空気が止まった。
あたしに合わせて少しかがんだその客の肩に揺れる桃色の髪となんとなしに聞き覚えのある声。
でも、彼女はプリーストだ。姉さんのような元気ばかり先立つ人がなる職業ではないだろう。
修道服と桃色の髪につつまれた細い首しか見ていない。
それで、いい。これだけ似ていて違っていれば、いくらなんでも少しショックだから……
あたしは慌てて笑顔を作り直して片手でカートの在庫を漁った。

「すみません、知っている人に似ていたものでね。魔法石20個でいいですね」
「……ええ」

 聞き覚えのある声がうなずいた。
 姉さんだ。姉さんだ。間違いない。姉さんだ……
あたしは、その客の顔をまともに見られなかった。
だけど、一度は見なくちゃいけない。最後のスマイルは『フィナの道端屋』の出来る唯一のサービス。
何故だろう、客の視線を感じる。睨んでるのかな、ちょっと手間取ってるから?
慌てて魔法石を数えて袋にまとめ、銀貨をいただいて交換した。  あたしはぐっと顔を上げた。

「やっぱりフィナだ」
「ありが……」

 姉さんの声の方が早かった。

「……姉さんなの?」

 情けない。そのあたしの声はかすれてて、こんなじゃ商売人失格だわ。

「違う? 私の妹はフィナっていうの。港町で商人の勉強をしていたのよ。
……そろそろ修行も終えて街に出ようって年頃じゃないかしら……とにかく、キミにそっくりなコ」

 姉さん、どうして?
そんな、修道服着て、あんなお転婆ばっかりの姉さんがプリーストなんて、どうして。

「あ、あたしの姉は……」

 そう、いつだって身体のあちこちに傷をつけて帰ってくるっていうその村一番の噂のお転婆娘。
今もそう。銀貨を差し出した手に残った血豆。微笑する頬にうっすらと残る傷跡。
ちょっと乱れた髪の切り口はきっと戦いで痛んだ部分を切ったものなんだろう。

「こんなところで商売やってるなんて、驚いたわ」
「お、おかねいらない……」
「何言ってるの」

 桃色の髪のプリーストはあたしの横に腰を下ろした。

「だって、姉さんはこれからずっとあたしと一緒なんだもの!」


 姉さんはあたしが旅に同行するという申し出に対し、頑として首を縦に振る事はなかった。
だけど、その日が終われば必ず帰ってくると約束をしてくれた。その代わり、あたしは商売に励むこと。
あたしの稼ぎではあたし一人が暮らすのでいっぱいいっぱいだ。
姉さんもその辺りの事情は同じだったらしく、自分の稼ぎをプラスしたお金で商売をしてもらい、 養ってもらえるならば今よりももっとやれる事が増えるという。
 あたしには姉さんの言う『やれる事』というのがイマイチよく解らなかったけれど、姉さんがあたしと一緒に 暮らしてくれるんならば関係のない事だ。それに、姉さんは見た感じ、慣れた冒険者だ。 きっといい働きをしているに違いない。マズイ話ではない。
こんな時まで打算の働く自分はやはり根っからの商人になっていた。
 あたしと姉さんは首都に戻ってお金を出し合い、宿の一室を長期で借りた。
あたしも姉さんもその日その日をあちこち転々と過ごしており、必ず一緒に休める場所というのがなかったから。
他の街に滞在する時も使う宿を定めて、出来るだけ一緒に過ごせるようにと姉さんは気遣ってくれた。
きっと、姉さん自体も嬉しく感じてくれていたんだと思う。

 姉さんと過ごし始めて、すぐに気づいた事があった。
姉さんは、帰るといつも怪我をしてきている。そりゃ、冒険に多少の傷はつきもので、 正確に言えば、魔法で急速治癒された大怪我の後が残っているのだ。
後衛支援の多いであろう姉さんが何故そんな大怪我を作って帰ってくるのか解らない。
よほど戦いの下手な戦士を連れているに違いないけれど、あたしには何も口出し出来ない。
後衛とは言え戦っている人に、「なんで怪我して帰ってくるの」なんて質問は愚問。
そして、姉さんは異常なほどに稼いで帰ってくる。あたしはそれを預かって仕入れを行い商売をする。
稼ぎは増える。
姉さんとあたしの生活道具や姉さんが何故か必要とする武器は全て姉さんの稼ぎのおかげで買える。
姉さんはあたしの商売が上手いからだと褒めるけれど、あたしは姉さんに感謝している。
……ただ、その沢山の怪我は何故なのか。それだけが気になった。
きっと、奇跡の魔法だけでなく前衛での戦いをもこなせるプリーストになったのに違いない。
お転婆姉さんならそれは有り得る。それにしても、その怪我はあまりにも酷かった。
 その日もやはり、怪我をして。
その前に会えた日もやはり、怪我をしていた。
姉さんにとってはその傷は既に当然の事なのか、傷が増えたところで特に痛がる様子も気にする様子も見られなかった。

「そういえばさ」
「うん?」
「姉さん、どうしてプリーストになったの?」

 姉さんの怪我に気を取られていて聞き忘れていた最初の疑問をやっと聞けた日があった。

「さぁ……どうしてかしらね、そういう気分だったのよ」

 不可解な、答え。

「フィナも特に疑問を持たずに商人の修行に行っちゃったじゃない。商人になりたいって話、聞かなかったけど」

 言われてみれば、そうだ。あたしは、商人になりたいと思っていたわけじゃない。
むしろ、村で姉さんと一緒に居たかった。両親が居ないあたし達は一緒に居たかった。
それが、言われるままに商人の修行に行って商人になってしまった。そして今この職が天職だと感じている。

「きっと最初から決まっていたんじゃないかしらね、何がどーなるとか」
「神様が決めた運命だとか?」
「……フィナは神様って信じてるの?」

 姉さんはヘンな質問をした。
聖職者がそんな事を言っていてどうするんだか。

「神様が居るから、姉さんはプリーストとかやれてるんじゃないの?」
「そういう見方もあるのかもね」

 姉さんはテーブルの上で手を組んで顎を載っけて窓…閉じられたカーテンを見やった。
その右手には潰れて痛々しい血豆。

「神様が居ればいいわね」

 姉さんは心の中で何かが千切れたように眉をひそめて、目を伏せた。
あたしはそんな姉さんを見たのは初めてのことで、何も言えずにただ姉さんを見つめていた。

「私がプリーストになった理由はね」

 千切れた何かを放り出して、姉さんはとつとつ語り始める。

「人を守りたかったから。どうしても守る力が欲しかったのよ」
「守る力」
「そう、守る力。神様が与えてくれるというこの力だけでは足りなかった」

 だから、そんな怪我を負って帰ってくるの?
いつも誰かを守る為に、誰かをかばう為に戦いに行くの?
あたしは雰囲気に圧されて聞けないままでいる。

「それで私はプリーストに昇格した。……そうだ、私はこの力で人を守れるって思い込んだのよ」

 まるでその道が間違っていたかのように、姉さんは言う。
むかっ腹がたった。

「どうして自分で選んでおいてそんな事言うのよ。一体どんな形が目的でプリーストになったのよ!
もっと別の職についていれば毎日そんな傷負って帰ってくる事なかったのに、自分を盾にして人を守ろうなんて、 そんなプリースト聞いたことない!」
「ごめんね、心配かけて」
「心配なんか」

 気恥ずかしさを感じて一度言葉を切ったけれど続けた。

「あたしが張り切って探した姉さんが、そうやって自分の信じた道を疑って暮らしてるなんて思わなかった」
「そうね。私、この道を疑ってる。いいえ、悔やんですらいるわ。そんな情けない事知られたくはなかったけど…
でもね、一度選んだ道だもの。やり遂げてみせるって、思っているのよ。私はプリースト、神の力を授かる者」

 その瞳に力は無い。でも、一点だけ曇らない意志をあたしは見たんだと思う。

「ふうん……そのプリーストが、何をやり遂げるって?」
「人を守るってこと」

 なんて抽象的な答えだろう。それでも、それが姉さんを動かしているチカラなのだと勝手に思った。
今まで姉さんが作り続けた大きな傷。姉さんが時折欲した強力な武具。全部その目的の為だったんだ。
そうか。そうか……
 あたしは席をたった。

「姉さん」
「何?」
「あたしは守られてるよ、姉さんに」

 そのまま寝室に入ったあたしには、何かを喋る姉さんの声は聞こえなかった。
パタンと扉を閉じて、深呼吸を一つだけ。
大きく息を吐き出して、あたしは姉さんの為に自分の道を続けようって誓った。
どんなに愚かでも、あれは唯一無二のあたしの姉だから。

―end.


*3rdの話で「住み別れの妹」が出たのでその再会の話。
2ndも一度作り直しているのですが、変わったのは髪の色だけだったんですよね。
殆ど1stと一緒にキャラスロットに居たので実姉妹の感覚。
ちなみにこの商人、luk型でした。楽しかったと記憶しています。
ついでに1stはagi-dex。agi完成。聖体とかサーバでもかなり早い時期に覚えてました。超見世物。