「あたし、ああいう不自然なの嫌い」
横目で脇のテーブル席―酔ったフリしていちゃつく男女―を見ながら、彼女が言った。
彼女はいつも「不自然」に対して厳しい。
そんな彼女自身はと言えば、それはこの場に似つかわしくない不自然な格好をしていた。
頭にはフリル、首元にはフリル、肩口からウエストまでを黒のリボンとフリル、
無理矢理膨らませたスカートにもフリル、サンダルの時期だというのに長い靴下、黒いローファー。
いわゆるロリータだ。
それが飲み屋のカウンターに座っている。
自分自身が「不自然」である事に彼女は気づいていないのではないだろうか。
彼女に言わせれば「ロリータ」ではなく「ロリィタ。」なんだと言う。
この主張も私にとっては無理しなくてもいいのにという感じの「不自然」に見える。
「砂肝下さい」
白い肌と浮世離れした衣装のお人形が、今度は慣れた口調で砂肝を頼んでいる。
彼女が「不自然嫌い」と言う度にツッコミたいと思う。
漫画や雑誌で見かける「ロリィタ」は衣装に沿ったキャラ作りをしているのに、
目の前の彼女にはそれがない。
もう服装に関しては問わない、
その格好に合う「不自然じゃない」立ち振舞いはできないのかと思う事すらある。
一度言ってみてもいいんじゃないか。あんたの矛盾したとこが嫌だとか。
「あのさー」
「なに」
「不自然嫌いってよく言うけど、あんたの服ってちょっとチガウんじゃない?」
「うーん、TPOをわきまえろとは言われる。
でもあたしだってバイト行く時とかおばあちゃんち行く時とかはちゃんとフツーのジーンズ履いていくし。
社会に溶け込めないのって致命的じゃん?」
「そういう事じゃなくてさ。そもそも不自然じゃない? その服で社会に溶け込もうってのが不自然であって、
更にその服に合う仕草で過ごしてないのも不自然」
「あー。酔ってるんだ」
彼女は笑った。
「まーね、自分でも思うよ。これは不自然だと思う」
「じゃあ、他人見て不自然不自然って言うのやめたら?」
「そうだねえ。みんな考えがあって不自然な事してるのかもね。変にけなすのよくなかったね」
いつもフリフリですっとぼけた格好でご大層な事を言う。
「あんたは考えで不自然な服着てるの?」
「考えっていうかー……不自然じゃない? 自分の趣味を抑えるのって」
「そっか」と一言で終わらせて、彼女の皿の砂肝を一本貰った。
完敗。
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