今日も恐れながらログインした。
水晶でウザ狩りするつもりだったに違いない、前にログアウトした俺は。
黒からフェードインする画面の色彩は青く青く青く
しょっぱなからクリセラに囲まれていて、面倒だからボルトシャワーを撃った。
ディレイがウザい。MR上げなきゃな。
俺は再振りが苦手だ。
シミュレータを設置しているサイトのページを思い浮かべる。
当然選ぶキャラはマキシミンであるから、マキシミンを選択し彼のイラストが表示された状態が容易に想像出来る。そもそもそれが俺のデフォルトであるし。
ああ。
うんざりだ。
要らぬ想像は掻き消して、俺はスコップを持って外に出る。
本当はスコップなんか持ってない。だけどこれは新たな想像であるから問題無い。
ともかく、スコップを持っている。園芸用で、小さく手のひらサイズ。
手のひらサイズだからといって、デジカメのCMみたいにもてはやされたりなんかしない。普通のスコップだから。ざまあみろ。
この哀れなスコップの柄に色をつけさせてもらえるならば、それは朱色のペイント。
さあ、このスコップでパンジーを植え替えたり、するんです。
それをしなさい。記憶の中で一番旧いスコップの記憶。
俺は今、スコップという意識を登用しスコップとなりました。
掘ります。俺は掘り進めます。ドリラーみたいなカラフルな掘り方しない。
そもそもあいつはドリルで俺はスコップなんだから。
パンジーの植え替えなんて地味な作業を誰がやっていられるものか。
俺は、そうだな。俺の夢でも教えて欲しい?
たかがスコップの夢だけど、教えて欲しい?
地球を掘るんだ。穿ち、傷つけ、穴ぼこだらけの不毛な家庭菜園を完成させる。
せっかく地球規模の話にしたのに、その終わりが家庭菜園だなんてバカな話。
そんな小さな器で終わるわけがない。俺は園芸用スコップ、それも朱色のペイントの。
甘く見るな! 甘く見るな!
園芸界に天変地異を起こしてやる。
まずはだらしなく成熟し垂れているへちまにこの刃を挿し込んでやる!
へちま死ね!
へちま硬てぇ!
と、へちまとは思えない衝撃に体が痺れた。
へちまを飼育している鉄枠に体がかすったのだろうか?
ギギと俺の刃へ軋みかかった振動が体に残って気持ち悪い。
ああ、そう。俺はたかがへちまにも勝てない。
だったら地球はヤメだ。
俺は宇宙を穿つ。宇宙を傷つけ、星空を掬い捨てて白い星空に変えてやる!
ホテルのスイートから眺める星空のあちこちが不器用に白くなっているのを見た時、お前らもきっと俺に惧れを抱くだろう。
覚えておけよ! 俺のこの名を覚えておけ!
俺は園芸用スコップ、鉄から成る体は既に完璧な存在だ。
誰も 邪魔は できない。
悪いな。先に宇宙へ行かせてもらう。簡単さ……飛べば、いいのさ。
思い通り。今、ソラへ! 舞う、朱色を基軸に舞い上がる。ソラへ。
勢いがついた俺にはまだ道が見えない。
やがて速度が落ち、やんわり視界が開けた時、俺を取り囲むその色彩は青く青く青く
「せんせー、スコップ、チャンバラしたら曲がったー」
「スコップでチャンバラしちゃいかんやろ! もぅ〜……そのスコップはどこへやったの?」
「曲がったもん、捨てた」
「どこへ捨てた!」
「隣のたんぼへ投げた」
「うそー……たんぼは人ん家の土地やろ! 物を捨てたらいかん! 後で拾ってきなさい」
「拾ってももう使えんと思うよ」
「ゴミならなおさら放っておいたらイカンやろう」
そっか。俺は普通の園芸用スコップだから、代わりがあるんだよな。
思えば同じ箱に入ってたあいつも、俺と同じ朱色の柄だった。あいつも、あいつも。
俺は今、泥まみれで、ちょっと柄から『骨折』してる。
ゴミ……かぁ…… 俺、人生ってもう少し普通なもんだと思ってたよ。スコップだけどさ。
結局ドブに埋もれたスコップの想像はここまでさね。
気づいたら俺もクリセラとトランプドールに埋もれていた。
リアルでふっと息を吐く。
なんだかその日は恐れていて、やる気もなく……青い水晶に立ったまま、ログアウト。
……の前に、俺の周りにたかったmobを一掃してから。
べべべべべべべとポーションを入れたF6を連打して、赤いオーラを撒き散らしながら、人差し指一本の右クリック。
ボルトシャワーのディレイは相変わらず遅い。MR上げなきゃな。
あ、こいつ座標ズレしてるウゼェ。
……一刻を経て、ログアウト。
*TWでの所属クラブのサイトでこっそり提供してたお話。
以下関連用語説明。MMORPGをやっている方なら雰囲気で大体つかめるとは思います。
水晶―『水晶の洞窟』というダンジョンマップ。マップ自体が青い
クリセラ―『水晶の洞窟』に居るモンスター
ボルトシャワー―範囲攻撃魔法。物理前衛キャラながらこれを扱う為、敢えて書き記してあった
ディレイ―攻撃やスキルなどの後にかかる硬直時間やキャスティング時間
MR―魔法防御のステータス。これが高いと魔法スキルのキャスティングが短くなる
再振り―MMORPGの中でも、極めて異例なステータス再振りシステム
マキシミン―TWでは詳細な設定のされたキャラを選択してプレイする為、職業という概念はない。
このキャラはいわゆる眼鏡っこ(ツンデレ)
トランプドール―『水晶の洞窟』に居るモンスター
F6―ファンクションキーにスキルやアイテムのショートカットを割り振られている
座標ズレ―実際に見えている存在位置とは違う位置にキャラが居る事。
ここでは敵が座標ズレを起こしており、範囲指定魔法はかかりづらい
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